ユキヒョウの基本情報
英名:Snow Leopard
学名:Panthera uncia
分類:ネコ科 ヒョウ属
生息地:アフガニスタン、ブータン、中国、インド、カザフスタン、キルギス、モンゴル、ネパール、パキスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタン
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
参考文献
特殊化した体
そこにいたとしても高地の景色に溶け込んでいること、そしてその低い密度から見つけることが困難なため、「山の幽霊」とも呼ばれるユキヒョウ。
彼らの体は、山岳地帯に適応するようにできており、特殊化しています。
例えば、寒さから守るため、毛は長く、密集しています。
冬になると、毛の長さは体の側面で5㎝、背中で3~5.5㎝、尾で6㎝、腹で10㎝以上にもなります。
また、1インチ(1インチは約2.5㎝)四方における毛の本数は、人間が約1,300であるのに対し、ユキヒョウはその20倍の26,000本。
このような密で長い毛のおかげで、ユキヒョウは-40℃もの極寒の環境にも耐えることができます。
毛の他にも、放熱を抑えるための小さい耳、楽に呼吸できるように、そして空気を温めるための広い鼻腔など、ユキヒョウは寒さに耐えるために体を特殊化させています。
しっぽもそうです。太くて長いしっぽは体に巻き付けることで暖を取る役割を果たしています。
ところで、このしっぽはマフラーとしての役割だけでなく、バランスをとる役割も果たしています。
ユキヒョウは、険しい岩場に生息しますが、そのような所で生活するにはとてつもないバランス力が必要です。
そのバランス力に貢献しているのが、長いしっぽです。
しっぽの長さはネコ科随一で、頭からお尻の長さの9割もの長さがあります。
この長いしっぽのおかげで、急峻な岩場でも暮らすことができます。
大きな足も、岩場での生活には欠かせません。
ユキヒョウの前足の大きさは、長さ約10㎝、幅約8㎝もあり、この大きな足のおかげで足場をしっかりと踏みしめることができます。
また、雪上でも雪に埋まらず移動することができます。
下の動画では、ユキヒョウの狩りを見ることができます。
彼らがこの体をもってどれだけのスピードで狩りをしているか是非確かめてみてください。
寒くて険しい山岳地帯に暮らすユキヒョウ。
特殊な環境に生息するだけに、彼らは他のネコ科動物には見られない特徴をいくつも持っているネコなのです。
山の幽霊はどれくらいいるのか
ユキヒョウは絶滅が懸念されているネコ科動物の1種です。
しかし、その個体数はかつて考えられていたよりも多いことが、近年の調査で分かってきました。
そのため、絶滅に関する評価も見直されています。
IUCNのレッドリストでは、2008年まで絶滅危惧ⅠB類だったものが、2017年には絶滅危惧Ⅱ類に格下げされました。
ユキヒョウはこれまで、道路建設や探鉱などによる生息地の破壊、人間の狩猟による獲物の減少、毛皮などを目的とした密猟などの影響で、個体数を減らしてきました。
しかし、最近の調査により、ユキヒョウがこれまでいなかったところに姿を現したり、20年以上いなかったところに帰って来ていたりすることが判明しました。
これに加え、今まで未調査だった部分まで調査が及んだこと、保全活動が進んだことにより、ユキヒョウの個体数は一部で安定、ないし増加している可能性が示唆されたのです。
特に保全活動の影響は大きいと思われます。
スノーレオパルド・コンサーバンシー(Snow Leopard Conservancy)や、スノーレオパルド・トラスト(Snow Leopard Trust)などの保全団体は、地域住民と協力することでユキヒョウの保全を目指しています。
例えば、商業目的でユキヒョウを殺さないように、手工芸品を作る訓練と道具を地域住民に与え、お金を稼ぐ術を身につけさせたり、家畜を襲うことによる報復を防ぐために、フェンスなどを提供したりといった試みが行われています。
また、各国は新しい保護区を作ったり、他国と協力したりすることでユキヒョウを守ろうとしています。
2013年には、ユキヒョウが生息する12か国全てがキルギスに集まり、「国際ユキヒョウ保全フォーラム(Global Snow Leopard Conservation Forum)」が開催され、ユキヒョウを各国が協力して守ることを目的にユキヒョウと生態系の保護プログラム(GSLEP:Global Snow Leopard & Ecosystem Protection Program)が採択されました。
このような熱心な保全活動が実を結んだこともあり、2017年にユキヒョウの絶滅に関する評価が格下げされたわけですが、とはいえ彼らの具体的な個体数は未だによく分かっていません。
総個体数は1万頭を超えないとされていますが、山の幽霊が果たしてどれくらい存在するのかは、保全をしていくうえでも重要な情報となるため、早いうちに判明することが望まれます。
ユキヒョウの生態
分類
かつてユキヒョウは、ユキヒョウだけでユキヒョウ属(Uncia)を作るとされていましたが、遺伝子研究の結果により、現在彼らはヒョウ属に分類されています。
最も近縁なのはヒョウではなくトラで、200万年以上前に共通祖先から分岐したと考えられています。
生息地
ユキヒョウは、主に中央アジアの高山地および亜高山地に生息します。
標高900~5,500mに生息しますが、3,000~4,500mの間に生息するのが一般的です。
開けた牧草地や低木地、岩場、峡谷などで暮らし、森林や農地は避けます。
現在、生息地の約6割が中国に位置しています。
食性
機会的捕食者であるユキヒョウは、35~75㎏の有蹄類を好んで食べます。
ユキヒョウの分布域は、最も重要な獲物であるシベリアアイベックス、バーラル、アルガリという有蹄類の分布域とほとんど一致して重複しています。
ユキヒョウはこのような獲物を10~15日に1頭必要とします。
この他、マーコールやヒマラヤジャコウジカ、そしてウシやヒツジ、ヤギといった家畜も食べます。
自分の3倍もある獲物を襲うこともありますが、一方で特に春や夏にはマーモットやウサギなどの小型哺乳類や鳥類も食べます。
また、理由は不明ですが、ユキヒョウは大量の植物質を食べることも知られています。
形態
体長はオスが104~125㎝、メスが86~117㎝、体重はオスが25~55㎏、メスが21~53㎏、尾長は78~105㎝で、通常オスがメスよりもわずかに大きいです。
大きなオスは体重75㎏になることもありますが、ユキヒョウは大型ネコ内では最も小型になります。
ユキヒョウは年に2度換毛します。
夏毛は体側面で2.5㎝、腹としっぽで5㎝です。
ユキヒョウは長い後肢を持っています。
これにより、彼らは15mもの大ジャンプをすることができます。
犬歯は3㎝に満たないほどで、虹彩は珍しく薄緑、薄灰色。
メラニズムとアルビノは未確認です。
行動
ユキヒョウは、夕方から夜を通して早朝にかけて狩りをします。
追跡するのは長くても200~300mです。
単独性のユキヒョウは、1日に10km以上も移動し、同じ範囲に留まる期間は長くありません。
そのため、行動圏は広く1,000㎢を超える場合もあります。
行動圏は通常オスの方が広く、オスの行動圏は1頭以上のメスと重複しています。
行動圏は、糞尿、地面掘りでマーキングされます。
コミュニケーションには、嗅覚の他、聴覚も用いられます。
親しい相手へのあいさつと考えられる鼻息のような鳴き声(prusten)は、ユキヒョウ以外には、ジャガー、トラ、ウンピョウにしか見られません。
下の動画はトラのものです。
ただ、ユキヒョウは大型ネコの仲間ですが、大型ネコでは唯一吠えることができません。
ユキヒョウの生息密度は非常に低く、100㎢に0.1~10頭ほどです。
繁殖
繁殖に関して、野生下の情報はあまりありません。
大型ネコには珍しく、ユキヒョウの繁殖には季節性があります。
交尾期は1月~3月にかけて、出産期は2月~9月(4月~6月がほとんど)にかけて見られます。
メスの発情期間は通常5~8日で、発情したメスは、唸り声をあげたり、しっぽを上げて陰部を見せたりしてオスを誘います。
妊娠期間は90~105日で、岩の隙間や洞窟などに、体重300~600gの赤ちゃんが通常2~3頭産み落とされます。
赤ちゃんは約1週で目を開き、2~3カ月で離乳します。
生後18~26カ月で独立し、2~4歳で性成熟に達します。
寿命は、飼育下で長くて約20年です。
人間とユキヒョウ
絶滅リスク・保全
個体数はいい方向に見直されたものの、ユキヒョウは依然として絶滅危惧種です。
また、個体数も未だに減少傾向にあり、今後も減り続けていくことが推測されています。
保全活動の効果もあるとはいえ、脅威は依然として存在します。
例えば、動物の殺生を禁じるチベット仏教の信仰地では、大量の野犬がユキヒョウの獲物を狩ったり、奪ったり、さらにはユキヒョウの子供を殺すこともあります。
密猟も絶えません。
密猟は減少傾向にありますが、依然として毎年200~500頭ほどのユキヒョウが殺されています。
長期的な脅威としては、地球温暖化が挙げられます。
温暖化により、森林限界が上がれば、森林は避けて生活するユキヒョウの生息地は狭くなります。
これら脅威が今後も続けば、保全活動も空しく、ユキヒョウの個体数はさらに減り続け、再び絶滅危惧ⅠB類に舞い戻ってしまう可能性もあるでしょう。
動物園
さて、絶滅危惧種のユキヒョウですが、日本の動物園でも会うことができます。
北海道の旭山動物園、秋田県の大森山動物園、東京都の多摩動物公園、石川県のいしかわ動物園、静岡県の浜松市動物園、兵庫県の王子動物園、熊本県の熊本市動植物園などがユキヒョウを飼育・展示しています。
「山の幽霊」と呼ばれるように、野生では見つけるのが難しいユキヒョウも、動物園では必ず見ることができます。
是非会いに行ってみてください。