トドの基本情報
英名:Steller Sea Lion
学名:Eumetopias jubatus
分類:食肉目 アシカ科 トド属
生息地:カナダ、日本、ロシア、アメリカ合衆国
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉

参考文献
陸の重要性
アシカ科では最大となり、北海道の日本海側や根室海峡にもやってくるトド。
彼らの体は海の生活に非常に適応していますが、それでもなお彼らにとって、ビーチや岩礁などといった陸は重要な存在です。
例えば、彼らは常に海中にいるわけではなく、休息のために陸に上がります。
こうした場所はホールアウトと呼ばれ、トドには必要な陸地です。
中でも最も重要なのが繁殖場としての陸上です。
ホールアウトでは繁殖は行われず、繁殖が行われる場所はルッカリーと呼ばれます。
ここではルッカリーの重要性を、オスとメスの視点から見てみましょう。
まずはオスの視点。
オスは5月中旬にメスがルッカリーに上陸するのに先んじて上陸します。
そして他のオスとの熾烈な闘争の末、自らのなわばりを築き上げます。
なわばりを築けるオスはごく少数で、そうしたオスは最大30頭のメスと交尾することができます。
オスにとって、ルッカリーは自らの子孫を残すための唯一の場として、きわめて重要です。
メスにとってはどうでしょう。
メスの場合、ルッカリーは出産、育児の場としても重要になります。
メスは上陸後、前年に身ごもった赤ちゃんを産みます。
そして、7~10日赤ちゃんを育てたのち、母親は18~25時間に及ぶ採餌に出かけます。
そして戻ってきて赤ちゃんに授乳したのち、また採餌に出かける。
ルッカリーはこの繰り返しの拠点となるのです。
メスは出産後2週間で発情し、オスと交尾できる状態となるので、ルッカリーはオス同様、交尾の場としても重要です。
ちなみに、トドは生まれた繁殖場に帰ってきて、自らも繁殖する傾向が強い生き物です。
特に成熟した個体は、繁殖期以外の期間ですら、この生まれた繁殖場周辺で採餌するというので、ルッカリーという場所がトドの生活では非常に重要な場所であることがわかります。

トドの生態
名前
属名のjabatusは「たてがみを持つ」の意で、特に成長したオスはたてがみを発達させます。
英名のStellerとは、多くの動物を記録したロシア帝国の医師・博物学者であるゲオルグ・ステラーに由来します。
ステラーの名は、絶滅した海牛類、ステラーカイギュウなどにも見ることができます。
和名のトドは漢字では「胡獱」もしくは「魹」。
アイヌ語に由来する説もあるようですが、アイヌ語は和名のトドを由来としているようで、和名のトドは大きさの極みを意味する「止め」に由来する説が有力です。
後者の語源で魚のボラの最も成長したものをトドと言います。

分類
遺伝学的、形態学的相違から、西経144度のアラスカ・サックリング岬を境に、東西2亜種に分けられます。
西の亜種はEumetopias jubatus jubatus 、東の亜種はE. j. monteriensisとされます。
生息地
トドは、温帯、亜北極帯の冷たい海に生息します。
沿岸から見られることも多いですが、沖合でも採餌します。

形態
体長はオスが3~3.3m、メスが2.3~2.5m、体重はオスが平均1t、メスが平均273㎏で、鰭脚類では4番目に大きくなります。
生まれたばかりの赤ちゃんは黒いですが、生後半年で換毛し、その後、年に1回ずつの換毛を経て大人の明るい色に変わっていきます。
食性
トドは、スケトウダラ、まだら、サバ、ニシン、イカナゴ、カレイなどの中・大型の魚やイカ、タコといった頭足類を日和見的に食べているとされています。
捕食者にはシャチが知られており、ホホジロザメやオンデンザメ、ネズミザメもトドを捕食しているとされています。

行動・社会
主に夜に活発になります。
繁殖期以外では1~12頭で見られますが、エサが豊富なところではラフトと呼ばれる大きな集団になることもあります。
トドは平均45mまで潜水し、2分ほど息を止めることができますが、最大で425m、最長で13分潜水することができます。
エサを飽食する冬に、より深くまで潜水することが知られています。
特に若い個体は生まれた繁殖場を離れて採餌することもあるようです。
体を温めるために鰭を水上に出して太陽を浴びせる行動が見られます。
陸や岩だけでなく海氷も休息場所として利用します。

繁殖
繁殖は春の終わりから夏にかけて行われます。
出産のピークは6月です。
メスは約3ヵ月の着床遅延を含む1年間の妊娠期間ののち、体長1m、体重18~22㎏の赤ちゃんを一頭産みます。
1歳ごろ離乳しますが、最長3歳まで授乳が続くこともあります。
性成熟には雌雄ともに3~6歳ごろ達しますが、オスが実際に繁殖できるのは、自分のなわばりを持ち社会的に成熟する9歳以降になります。
寿命についてオスが20年、メスが30年までとされています。

人間とトド
絶滅リスク・保全
トドはこれまで漁業を邪魔する存在として殺されたり、餌生物が減少したりしたことによって数を減らしてきました。
彼らは学習能力が高く、漁網の魚を食べることで漁業被害をもたらし、「海のギャング」として漁業関係者からは嫌われることもあります。
減少傾向は特に西の亜種で顕著で、1970年代から2000年代初頭にかけて約80%も数を減らしたとされています。
現在でも地域によっては減少傾向にあるようです。
一方、東の亜種は現在増加傾向にあり、1985年から2015年の間に個体数は2.4倍となっています。
現在推定されている個体数は東と西、それぞれ8万頭、合わせて約16万頭で、全体としては増加傾向にあります。
IUCNのレッドリストではこの増加を受け、2012年には絶滅危惧ⅠB類から準絶滅危惧にダウンリストされています。


動物園
日本では北海道近海の他、全国各地の水族館でトドを見ることができます。
北海道のおたる水族館などではトドのショーが見られます。
日本では縄文時代の遺跡からトドの骨などが出土しており、トドは特にオホーツク文化とのかかわりが強い生き物です。
北海道では今でもトド肉が流通しています。
意外に身近なトドを見に、ぜひお近くの水族館まで足を運んでみてください。