ドールビッグホーンの基本情報
英名:Thinhorn Sheep
学名:Ovis dalli
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ヒツジ属
生息地:カナダ、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉

真っ白なヒツジ
カナダとアメリカの高山地帯に生息するドールビッグホーンは、真っ白な姿と大きな角が印象的です。
真っ白な彼らの姿は、冬の雪山では見事に景色に紛れ、オオカミやコヨーテといった捕食者の目をだまします。
彼らの被毛は綿毛と5㎝以上の保護毛からなり、冬でもへっちゃらです。
この毛は3月から6月にかけて抜け落ちますが、それでも真っ白。
夏の緑が生い茂る草原では、かえって目立ってしまいます。
そのため、メス、特に子供が生まれたばかりのメスは、険しい岩場で捕食者を避けつつ生活します。


実はこの白い被毛を持つドールビッグホーンは、アラスカやユーコン準州を中心に生息するドールシープ(Ovis dalli dalli)と呼ばれる亜種だけです。
ドールビッグホーンにはもう一つ、ストーンシープ(Ovis dalli stonei)と呼ばれる亜種が存在しますが、彼らはその名の通り石のような色をしています。
ユーコン準州南部やブリティッシュコロンビア州北部に生息するストーンシープの体色は、彼らの生息環境である岩場の多い山にうまく溶け込みます。
色は違う2つの亜種ですが、どちらも名前に負けない大きな角を持ちます。
洞角(どうかく)、英語ではホーンとよばれるその角は雌雄ともに生えますが、大きい角を持つのはオスだけです。
彼らが英語では“Thinhorn Sheep(細い角のヒツジ)”とも呼ばれるように、同じく北米に生息する野生ヒツジ、ビッグホーンと比べるとその角は見劣りしてしまいます。
ただそれでもその角は立派と言わざるをえず、ドールビッグホーンのオスの角は1.2mほどにまで成長し、重さは体重の8~10%にもなります。

この角は生後すぐに生え始め、一生伸び続けます。
角は春と夏に特に成長し、秋に鈍化、冬には停止します。
その成長の痕は角に年輪として残るため、彼らの年齢推定には角が役立ちます。
オスにとって角は闘わなくてもわかる強さの象徴です。
ドールビッグホーンは普段雌雄別の群れで暮らしますが、オスの群れには明確な序列があり、優位なオスがより多くのメスと交尾することができます。
そのため、オスは雌雄の群れが合流する繁殖期付近の期間、この優位を競うのですが、この座を手にするのは角の大きいオスです。
基本的に角の小さい、つまり若いオスは、戦わずとも角の大きなオス、つまり成熟したオスに敗北を認めます。
ただ、同じ大きさの角を持つオス同士が対峙したとき、最後は真に強いものが勝利を手にします。
彼らの闘争は非常に儀式的です。
お互い距離をとり、上体を浮かして反動をつけたのち、トップスピードで相手に頭から突っ込みます。
こうして頭同士がぶつかる音が1㎞先にも届くほど激しいこの戦いを制すれば、オスは角が見せかけでないことを示すことができます。
険しい環境で厳しい競争を勝ち抜くドールビッグホーンのオス。
その頭に生える角は、飾りではなく彼らの誇りそのものなのです。

ドールビッグホーンの生態
生息地
ドールビッグホーンは、北米北西部の高山地帯に生息します。
草原や茂みが生えた開けた環境で暮らしますが、捕食者から逃げる岩場や崖のある場所を選びます。
形態
体長はオスが1.3~1.8m、メスが1.3~1.6m、体重はオスが73~113㎏、メスが46~50㎏、尾長は7~11㎝で、オスの方が40%ほど重たくなります。
メスの角は成長しても30㎝程度です。

食性
グレイザーである彼らは地面に生えた草を主食とし、地域によって50~120種の植物を食べます。
少量ですが地衣類やコケ類も食べます。
ミネラルリックは彼らの移動を決める大きな要因です。
捕食者にはオオカミやコヨーテの他、クズリやピューマ、イヌワシが知られています。




行動・社会
繁殖期を除くと雌雄別の群れで暮らします。
メスの群れでは少数のメスが採食する他のメスの子の世話をする場合があります。
年中定住する群れもありますが、夏と冬で別の場所で過ごす群れもあります。
冬には積雪が浅く、風が強い場所が選ばれます。
風は雪を飛ばし、エサを露見させるため、重要な要素です。
繁殖
繁殖は11~12月、出産は5~6月に見られます。
メスは約半年の妊娠期間の後、3~4㎏の赤ちゃんを通常1頭産みます。
赤ちゃんは生後15~30分で立ち上がり、1日以内には母親について歩けるようになります。
生後2週間で草を食べ始め、生後4~5ヵ月で離乳します。
性成熟には2歳ごろ達しますが、オスが繁殖できるようになるのは社会的成熟を迎える5~7歳ごろからです。
寿命は飼育下で20年までです。

人間とドールビッグホーン
絶滅リスク・保全
ドールビッグホーンの個体数は安定しており、総数は9.6~12.6万頭と推測されています。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
生活やスポーツ目的の狩猟は行われていますが、厳格に管理されており脅威ではありません。
ただ、気候変動やヤギ・ヒツジからの伝染病は彼らにとって大きな脅威となっています。

動物園
ドールビッグホーンを日本で見ることはできませんが、近縁のビッグホーンは日本でも見ることができます。
