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セイウチ

セイウチ
©2004 Alaska Region U.S. Fish & Wildlife Service: clipped from the original
目次

セイウチの基本情報

英名:Walrus
学名:Odobenus rosmarus
分類:食肉目 セイウチ科 セイウチ属
生息地:カナダ、グリーンランド、ロシア、アメリカ合衆国
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉

セイウチ
Photo credit: U.S. Fish and Wildlife Service Headquarters

参考文献

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例外尽くしの鰭脚類

鰭脚類はアシカ科、アザラシ科、そしてセイウチ科からなりますが、現在生きている哺乳類の中でセイウチ科に分類されるのはセイウチだけです。

セイウチ科はアシカ科とともにアシカ上科に位置付けられ、アザラシとの共通祖先と分岐したのち、アシカ科とセイウチ科が別れたとされています。


しかし、セイウチは外に飛び出す耳介がないことや、後肢が水中で主に推進力を産むことなど、アザラシと少なからず共通点があります。

一方で、陸を歩く際、後肢を前方に曲げ前肢で体を支える点や一頭のオスが多くのメスと交尾する繁殖システムはアシカに似ています。

とはいえ、彼らはやはり鰭脚類の中でも特にユニークな存在。

彼らにしかない特徴が沢山あります。

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例えば、セイウチは鰭脚類では例外的に目が小さいです。

多くの鰭脚類ではにおいが感知できず、光が少ない海中でもエサを探せるよう、目が大きくなっています。

しかし、セイウチの目は体のわりにつぶらです。

セイウチは感覚が鋭敏なひげを使って海の底にすむ底生生物を食べるため、大きな目が必要ないのです。

ちなみにセイウチは祖先の時代から目が小さかったようで、主食は沿岸の魚でした。

しかし、海が寒冷化し沿岸域の餌資源が減少した結果、目が小さいことで光の少ない沖では適応できず、次第に衰退していきます。

そんな中わずかに生き残った種が底生生物に食性を転換させ、現在のセイウチにまでつながっています。


セイウチは粗い毛も特徴的です。

特に子供に比べると大人の毛は粗く、皮膚のしわがよく見えます。

彼らは体温を被毛ではなくブラバーと呼ばれる脂肪に頼っています。

2~4㎝の厚い皮膚の下には、最大で25㎝もの脂肪の層があり、これが断熱効果をもたらしているのです。

このように保温を脂肪に頼る方法は、鯨類と同じです。

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他にも子育ての仕方も独特です。

一般的にアザラシは1ヵ月程度の短い授乳時間で、陸上ないし氷上で子を育て上げます。

一方、アシカは海中での採餌と陸上での授乳のサイクルを繰り返しながら1~2年をかけて子供を育てます。

そんな中、セイウチの授乳期間は約3年、鰭脚類では最長です。

赤ちゃんは新生子毛(ラヌーゴ)を母親の胎内で脱ぎ捨てて生まれてくるので、生まれて数時間で泳ぐことができます。

赤ちゃんは親から離れることなく育ち、授乳は水中でも行われます。

さらに、母親の15ヶ月という妊娠期間も鰭脚類最長です。


このように、セイウチは鰭脚類の中でも特にユニークな存在ですが、彼らを彼らたらしめるものと言えば、やはりその牙です。

漢字では「海象」と書くのも納得できるその牙の正体は、上顎の犬歯。

雌雄ともに生え、一生伸び続けます。

牙はオスで最長1m、5㎏、メスでは最長80㎝にもなります。

牙は繁殖時の闘争や、採食時にエサを掘り起こすことに使われていると考えられています。

また、氷上に上がるときにピッケルのようにして使われることでも知られています。

彼らの属名“Odobenus” は、歯を意味する“odontos”と、歩行を意味する“baenos”というギリシア語に由来しています。

これはまさに、彼らが牙を使って氷上に上がる姿を形容しています。


どこから見ても彼らだとわかるセイウチ。

しかし我々がどう思うかなど歯牙にもかけず、彼らは今日も北極海で暮らしています。

セイウチ
Photo credit: U.S. Geological Survey

セイウチの生態

分類

タイセイヨウセイウチ(O. r. rosmarus)とタイヘイヨウセイウチ(O. r. divergens)の2亜種が知られています。

タイセイヨウセイウチの方が若干小さくなります。

生息地

北極海、亜北極圏の海氷の辺縁部に生息します。

大陸棚上の浅いエリアに好んで生息します。

放浪個体がイギリスやノルウェー、フランス、ドイツ、日本付近で見られることがあります。

セイウチ
Photo credit: Polar Cruises

形態

体長はオスが3.6mまで、メスが約3m、体重はオスが880~1,557㎏、メスが580~1,039㎏で性的二型が見られます。

セイウチのオスは2種のゾウアザラシに次ぐ大きさですが、メスは鰭脚類最大です。

メスには2対の乳頭があります。

特にオスは首周りの皮膚が分厚く、他のオスや捕食者の攻撃から身を守る役目を果たします。

口周りに数百本生えるひげは感覚毛(洞毛)と呼ばれ、餌の探知に役立ちます。

前肢のヒレは泳ぐ際や餌を探す際に使われますが、採餌の際、多くの個体が右側のヒレばかり使うため、セイウチは右利きであるとされています。

食性

底生の二枚貝を好んで食べます。

口で水流をおこすなどして砂を払ったのち、餌を吸い込んで食べます。

この時、貝の軟体部だけを食べ殻は吐き出します。

体重1tの個体はこの貝を1日2,000~6,000個食べると言われています。

潜水は通常80mまで。

5分程度潜って採食します。

この他、甲殻類やタコ、ナマコなども食べます。

また、アゴヒゲアザラシワモンアザラシなど他のアザラシや海鳥を捕食することも知られています。

捕食者はホッキョクグマシャチです。

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行動

海氷とともに、夏は北へ、冬は南へ移動します。

特に夏は陸でも休息します(ホールアウトという)が、餌場が近い氷上をより好みます。

また、採食のためにホールアウト場から数時間~数日離れることが知られています。


セイウチは非常に多様な音声を出すことが知られており、飼育下個体では人工音の模倣ができることが確認されています。

繁殖期、オスはこの音声や潜水行動などを決まった順番に行い、メスに求愛します。

セイウチは水中でも音声をだせますが、これは気管につながる気嚢を震わせて出しているのではないかと考えられています。

社会

セイウチは繁殖期以外でも群れを作ります。

オスとメスは別で行動し、子供は離乳するとオスがオスのグループに移動する一方、メスは母親の群れに留まります。

繁殖場所には時に千頭以上集まるため、メスや資源の防衛は困難です。

そこでオスはメスのホールアウト場所周りに小さななわばりを築き、そこを守りながらメスに求愛します。

メスに好かれるオスは一部で、そのオスは複数のメスたちと交尾します。

こうした小さななわばりや配偶システムはレックと呼ばれ、哺乳類では一部にしか確認されていません。

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セイウチ
Photo credit: NOAA Photo Library

繁殖

交尾は12月から1月にかけて水中で行われ、出産は4月から6月にかけて見られます。

メスは4~5ヵ月の着床遅延を含む15~16ヶ月の妊娠期間の後、1~1.4m、33~85㎏の赤ちゃんを氷上に一頭産みます。

生後1~2ヵ月で初めて換毛し、5ヵ月頃に固形物を食べ始めますが、完全に離乳するのは2~3歳ごろです。

メスは3年に1度のペースで出産します。

オスは7~13歳で性成熟に達しますが、8~10歳ごろ牙や精巣、陰茎骨、首周りのコブが一気に発達し、実際に繁殖できるのは15歳以降です。

メスは4~10歳で繁殖可能となります。

寿命は30~40年です。

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セイウチ
Photo credit: Alaska Region U.S. Fish & Wildlife Service

人間とセイウチ

絶滅リスク・保全

セイウチは古くから体の一部がイヌイットなど原住民によって利用されてきました。

肉は人間やイヌの食料となり、皮は舟や機械のベルトに、牙は工芸品やかつては銛に、皮脂は油として使用されました。

一方18~20世紀初頭にかけて米欧により無制限に捕獲されたため、セイウチの個体数は数十万から6万頭にまで激減しました。

しかし、1970年代以降、世界的な環境保全意識の高まりとともに彼らは保全されるようになり、今ではその個体数はタイセイヨウセイウチで2.5万頭未満、タイヘイヨウセイウチで20万頭未満と推測されるまでになっています。

ただ、依然として絶滅は懸念されており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。


狩猟は依然として行われているものの、カナダやグリーンランド、アラスカ、ロシアでは制限が設けられるなどして持続可能な程度とされています。

一方、地球温暖化やガス、油田の発掘、石油の流出、船舶での航行などは、現在のセイウチにとっての脅威とされています。

ワシントン条約(CITES)において、セイウチは附属書Ⅲに記載されており、取引には輸出国の許可書や原産地証明書が必要とされています。

セイウチ
Photo credit: NOAA Photo Library
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動物園

日本では7つの水族館でセイウチを見ることができます。

なかでも大分県の大分マリーンパレス「うみたまご」ではセイウチショーが開催されています。

触れ合うこともできるようなので、ぜひ彼らの特徴を間近で観察してみてください。

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