ニルギリタールの基本情報
英名:Nilgiri Tahr
学名:Nilgiritragus hylocrius
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ニルギリタール属
生息地:インド
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉

崖っぷち
インド西岸に山々が1,600㎞にもわたって連なって形成された西ガーツ山脈。
ヒマラヤ山脈よりも歴史が古いこの山脈はさまざまな動植物が存在する生物多様性のホットスポットであり、世界自然遺産にも登録されています。
そんな西ガーツ山脈の南東部に生息し、南インドでは唯一高山に適応した有蹄類が、ニルギリタールです。
ニルギリタールはヤギ亜科に分類される偶蹄類で、崖や岩場の多い山に生息します。
ニルギリタールの生息地は、州で言えばケララ州とタミル・ナードゥ州にまたがっており、彼らはタミル・ナードゥ州の動物でもあります。
また、ケララ州のエラビクラム国立公園は、彼らが最も生息する場所です。
ニルギリタールのニルギリとは、タミル語で「青い山」を意味します。
その言葉がさすニルギリ丘陵は西ガーツ山脈の一部を成し、彼らの重要な生息地となっています。
ちなみに、このニルギリ丘陵で生産された紅茶も「ニルギリ」と呼ばれています。
また、ニルギリとつく動物は他にもおり、哺乳類では霊長類のニルギリラングールが知られています。

ところでニルギリタールは、IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種に指定されています。
残存個体数は西ガーツ山脈の5%にも満たないエリアに2,000頭程度と推測されており、インドでは1972年に成立した野生生物保護法によって法的保護を受けています。
大きな脅威の一つが家畜です。
家畜はエサをめぐってニルギリタールと競合するだけではありません。
家畜が食い荒らした場所には家畜たちの採食圧に耐えうる植物種が侵入し、ニルギリタールがよく食べる植物との競合が生まれるのです。
これに加え、ニルギリタールの生息地の農地への転換なども伴い、彼らの生息地はどんどん縮小し、その分布域はかつての10分の1以下と言われています。
また、こうした生息環境の悪化は、生息地の分断を引き起こし、それが個体群間の交流を妨げる結果、遺伝的多様性の低下がみられる可能性があります。
崖や岩場をものともせず歩き渡るニルギリタールですが、さすがにこの崖は危険です。
彼らはまさに崖っぷちの状況にあります。

ニルギリタールの生態
生息地
標高1,200~2,600mの草原と林がモザイク状に点在し、崖や岩場の多い環境に好んで生息します。
形態
体長は0.9~1.4m、肩高は1mまで、体重は50~100㎏、尾長は9~12㎝で、オスの方が大きくなります。
角(ホーン)は雌雄ともに生えます。
オスの方が若干大きく45㎝にまでなります。
体色はオスが黒、メスが灰がかった明るい茶色で、特にオスの背中は銀がかります。

食性
主にグレイザーで草を主食とします。
捕食者にはトラやオオカミ、ドールが知られています。



行動・社会
薄明薄暮時に最も活発になります。
メスだけの群れや雌雄混ざった最大100頭までの群れが見られます。
オスはメスをめぐって闘争します。

繁殖
繁殖は年中見られますが、出産のピークは冬に見られます。
約半年の妊娠期間の後、通常1頭の赤ちゃんが生まれます。
2~3歳で性成熟に達します。
寿命は野生では10年未満です。

人間とニルギリタール
絶滅リスク・保全
ニルギリタールの個体数は現在も減少傾向にあります。
脅威は家畜や生息地の破壊の他、密猟があります。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されていますが、ワシントン条約(CITES)附属書には記載がありません。


動物園
日本でニルギリタールを見ることはできません。
タールの一種、ヒマラヤタールには3つの動物園で見ることができます。
