アーベルトリスの基本情報
英名:Abert’s Squirrel
学名:Sciurus aberti
分類:齧歯目 リス型亜目 リス科 リス属
生息地:メキシコ、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉

参考文献
共生
アメリカ合衆国とメキシコの標高2,000m近くの森に生息するアーベルトリス。
耳の房毛が特徴的な彼らは、メキシコやアメリカのニューメキシコ州では混交林にも生息しますが、基本的には針葉樹林で暮らします。
特にポンデローサマツの針葉樹林が重要で、彼らはこのマツにかなり依存しています。

リスの中にはドングリなどを貯め、後日食べる貯食を見せる種や、冬眠する種がいますが、アーベルトリスは貯食も冬眠もしません。
ポンデローサマツが年中食べ物を供給してくれるからです。
松ぼっくりや蕾、芽だけでなく、冬にはマツに絡まるヤドリギやマツに宿る菌類も食べます。
ちなみに、ヤドリギはエサとなるだけでなく、巣の基礎にもなります。
アーベルトリスは樹高10mあたりのところに巣を作り、そこで休息、出産、子育てを行います。
枝や葉っぱを集めて一から樹上に巣を作ることもありますが、マツに絡まりつくヤドリギがあるところでは、その労力は半減します。
また、アーベルトリスが菌類を食べてくれることは、ポンデローサマツにとっては実は非常にありがたいことです。
菌類と言っても、その正体は植物と共生する菌根菌。
養分や水分の吸収の促進、病原菌や有害物質からの保護などの役割を一般的に持ち、植物にとっては感謝すべき存在です。
それを食べるとはアーベルトリスは悪者のようです。
しかし、食べる過程で菌の胞子は拡散されるため、アーベルトリスはポンデローサマツと菌類の共生関係の再生産に役立っているのです。
このように、アーベルトリスはポンデローサマツに恩恵を与え、逆に与えられもする深い関係にありますが、彼らは他の動物とも思いがけない関係を持っています。
その動物とは北米に生息する有蹄類、ミュールジカです。
雪が積もる冬は、地上で暮らすミュールジカにとっては、エサが少なくなる厳しい季節です。
しかし、アーベルトリスがいるところでは、恵みの雨ならぬ餌が降ってきます。
アーベルトリスが樹上で食べかけの餌を地上に落としてくれるのです(もちろん彼らに意図はありません)。
ちなみに、このような樹上の動物が落とす餌を地上の動物が食べるという関係性は、日本のヤクザルとヤクシカ、アフリカのニアラとヒヒ、子殺しで有名なハヌマンラングールと世界一美しいシカ・アクシスジカなど、霊長類と有蹄類によく見られます。
アーベルトリスは、彼らが自覚しているかどうかはわかりませんが、様々な生物と関係を持つ非常に重要な種と言えるでしょう。









アーベルトリスの生態
生息地
アーベルトリスは、アメリカ合衆国のユタ州南東部、コロラド州西部、南部、ワイオミング州南東部、ニューメキシコ州西部、中央部、アリゾナ州、そしてメキシコのチワワ州、ドゥランゴ州、ソノラ州に分布します。
標高1,830m~2,590mの、ポンデローサマツやイエローパインが茂る針葉樹林に生息します。

形態
体長は30㎝前後、体重は0.5~1㎏、尾長は20~25㎝で体サイズに性差はありません。
耳の房毛は2~3㎝で、大人では夏に見られなくなることがあります。
体色は灰色、茶色、黒色で、特にコロラド州北部では真っ黒なメラニズム個体が見られます。

食性
松ぼっくりや蕾、頂芽、種子、内樹皮などを食べます。
早春には樹液も食べます。
ポンデローサマツ1種に依存する個体もいます。
捕食者にはコヨーテやボブキャット、ピューマの他、オオタカなどの猛禽類が知られています。



行動・社会
昼行性で薄明薄暮時に最も活発になります。
単独性でなわばり性が弱く、同じ巣に複数が見られることもあります。
個体数密度は2~114匹/㎢と幅があり、同じ巣に複数みられることは、この密度に関係している可能性があります。
行動圏は40~90haと広いですが、冬には20haほどになります。
巣は複数存在し、彼らはその巣を渡り歩いて生活します。
繁殖期になると多いと10匹以上のオスが1匹のメスを追いかけまわし、最終的に2~6匹のオスが交尾するに至ります。
アーベルトリスでは、射精後メスの膣をふさぐ交尾栓が見られます。
繁殖
繁殖は2月から6月にかけて見られます。
メスの妊娠期間は43日前後で、一度の出産で1~5匹、平均3.5匹の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんは12gほどで無毛ですが、離乳する生後10週くらいには350g程度まで成長します。
寿命は飼育下で最長7年です。
人間とアーベルトリス
絶滅リスク・保全
アーベルトリスの個体数は安定しているとされ、現在のところ大きな脅威はありませんが、ポンデローサマツに依存しているため、その伐採などは潜在的な脅威です。
また、トウブハイイロリスやキツネリスなどの導入は、アーベルトリスの生息に影響を与える可能性が指摘されています。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。

Abert’s Squirrel | The IUCN Red List of Threatened Species
動物園
日本でアーベルリスを見ることはできません。


