ノドブチカワウソの基本情報
英名:Spotted-necked Otter
学名:Hydrictis maculicollis
分類:イタチ科 ノドブチカワウソ属
生息地:アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、コートジボワール、赤道ギニア、エリトリア、エチオピア、ガボン、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、リベリア、マラウィ、マリ、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、ルワンダ、シエラレオネ、南アフリカ、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉
外来種の危険性
ノドブチカワウソは、アフリカ中部を中心に広く生息していますが、現在個体数を減らし続けており、IUCNからは準絶滅危惧種に指定されています。
その理由はいくつかありますが、ここでは外来種について説明しましょう。
アフリカ最大の湖で、世界でも二番目に大きな淡水湖であるヴィクトリア湖。
ここにはかつて、ノドブチカワウソのエサとなるシクリッドなどの小型の魚が、たくさん生息していました。
しかし、ある生物の登場により事態は一変してしまいます。
1950年代、それまでの乱獲で減少した漁業資源を増やすために、ナイルパーチという、スズキ目でナイル川原産の魚がヴィクトリア湖に移入されます。
漁業資源の増加という目的からすれば、現在ナイルパーチは周辺地域の代表的な水産物となっているため、移入の結果は成功と言えるかもしれません。
しかしその一方で、最大で体長2m、体重200㎏にもなるナイルパーチの移入は、ヴィクトリア湖の生態系にとてつもない被害をだしてしまいました。
ナイルパーチは大型で肉食の魚であるため、移入後、簡単にヴィクトリア湖の生態系の頂点まで上り詰めてします。
そのナイルパーチが小さな魚を食い荒らした結果、ヴィクトリア湖における多様性が有名なシクリッドと呼ばれる魚は数百種も姿を消したと言われています。
被害はシクリッドなどの魚だけに留まりません。
その魚を食べる、ノドブチカワウソのような動物にも及びます。
ナイルパーチの移入は、人間を満足させたかもしれませんが、その一方で多すぎる犠牲を出してしまいました。
ちなみに、日本において、ナイルパーチは特定外来生物に指定されており、飼育及び生きた個体の輸入は禁止されています。
しかし、加工されたナイルパーチは日本にも輸入されています。
もしかしたら知らないうちに皆さんも食べているかもしれません。
ナイルパーチの他に、もう一つノドブチカワウソの生息環境を荒らしている生物がいます。
それが、ホテイアオイという植物です。
ホテイアオイは南米原産の水草で、ウォーターヒヤシンスとも呼ばれています。
日本では重点対策外来種に指定されており、高松市の春日川における大繁殖がニュースになるなど、近年注目されている浮草でもあります。
このホテイアオイ、他にも「青い悪魔」という異名を持っています。
その由来は、ホテイアオイが生息地で大繁殖して生態系に甚大な被害を与えることにあります。
再びヴィクトリア湖の登場ですが、ここでは1990年代末以来、ホテイアオイやアオコが大繁殖しています。
その原因は、湖周辺の人口増加による生活排水の流入増加、農作物への肥料の降雨による流入にあると考えられています。
これらの水生植物の異常発生により、物質循環や食物連鎖に異常をきたす可能性が示唆されています。
ヴィクトリア湖に住むノドブチカワウソにも、当然その影響が及んでいるはずです。
肉食動物の中でも特に水辺、水中での生活に特化しているノドブチカワウソ。
彼らは、外からやってきた巨大魚や水生植物によって、絶滅の危機にさらされています。
ノドブチカワウソの生態
生息地
ノドブチカワウソは、標高2,500mまでの湖や川に生息し、きれいな水と、岩や植生が十分にある所を好みます。
巣は水辺の岩の間、茂みなどに作られ、そこで休息や子育てをします。
食性
主にシクリッドなど、体長20㎝以下の魚類を食べます。
その他には、カエルやカニ、軟体動物、昆虫、幼虫なども食べます。
形態
体長は60~75㎝、体重は3~6.5㎏、尾長は約40㎝で、オスの方が大きくなります。
手足は完全な水かきが付いており、長いしっぽはオールの役割を果たします。
行動
昼行性のノドブチカワウソは、時々群れで観察されますが、少なくとも狩りは単独で行われます。
行動圏はメスよりもオスの方が大きく、オスの行動圏は1頭以上のメスの行動圏と大幅に重複しています。
単独でも複数でも遊ぶことがあり、音声をよく使います。
繁殖
繁殖には地域によって時期に違いはあるものの、季節性があります。
妊娠期間は約2カ月で、1~3頭の赤ちゃんが産まれます。
赤ちゃんは主に母親によって育てられ、約1年で独立、2歳以降に性成熟に達します。
寿命は飼育下で、20年以上生きることもあります。
人間とノドブチカワウソ
絶滅リスク・保全
ノドブチカワウソは、先述の外来種の影響や生息地の破壊、水質汚染により個体数を減らしています。
彼らはきれいな水と、土壌が岩や植物で覆われた水辺を好むため、農業や漁業、都市化の影響は少なくありません。
また、彼らは毛皮、肉、伝統的な薬の目的で狩猟されたり、魚などの資源をめぐる競争相手との認識により、人間に殺されたりすることもあります。
これら脅威により、ノドブチカワウソの個体数は、この先約20年で、さらに20%減るのではないかと言われています。
動物園
そんなノドブチカワウソですが、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
ただ、日本では4種のカワウソを見ることができます。
もし動物園でカワウソを見たときは、ノドブチカワウソのことや、ヴィクトリア湖のことに思いを馳せてみてください。