ハナゴンドウの基本情報
英名:Risso’s Dolphin
学名:Grampus griseus
分類:鯨偶蹄目 マイルカ科 ハナゴンドウ属
生息地:北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
歯なしゴンドウ
ゴンドウとはイルカやクジラなどと同じく、その定義があいまいです。
漢字で書くと巨頭。
ハンドウイルカなどに見られるような嘴がなくて頭がやや大きな、中型の鯨類にその名がつくことが多いです。
ハナゴンドウもその一種。
嘴がなく高い背びれが特徴的です。
ハナゴンドウは漢字で書くと花巨頭。
体中の傷が花のように見えることからその名がつけられました。
この傷は松葉のように見えることからマツバゴンドウと呼ばれることもあります。
ちなみに体につく傷は老齢個体ほど多く、他のハナゴンドウやダルマザメ、ヤツメウナギなどによって付けられます。
また、ハナゴンドウは特にイカ類を主食としているため、イカから付けられる傷も少なくありません。
ところで、鯨類は大きくヒゲクジラとハクジラに分けられますが、ヒゲクジラがひげ板という特殊な歯を持っている一方、ハクジラには他の哺乳類のような歯が生えています。
多くの哺乳類の口の中には門歯や犬歯、臼歯など様々な種類の歯が生えていますが、ハクジラの場合は同じ形の歯だけしか生えていません。
このような性質を同型歯性といい、爬虫類の歯も同じ性質を持ちます。
それでは、ハクジラの一種であるハナゴンドウはどうでしょう。
彼らは2~7対の同じ形をした歯を持っています。
ただし下のあごだけ。
彼らの上あごには歯が存在しません。
これにはハナゴンドウの食性が関係していると考えられます。
歯と食性は密接に関係しています。
例えばトラやライオンなど肉食動物は肉を切り裂くために臼歯が変化した裂肉歯という歯を持っています。
しかし、肉食動物の中でもタヌキなどの雑食の動物は、木の実などをすりつぶすための臼歯が発達しています。
さらにアリやシロアリをよく食べるナマケグマなどは、使わない歯が退化しています。
ハナゴンドウの場合も同じです。彼らはイカを主食としますが、かみ砕くことなく、吸引採餌といって口の中でつくる陰圧を使って丸呑みします。
必要のなくなった歯が退化したハナゴンドウ。
ハナシゴンドウという別名があってもおかしくありません。
ハナゴンドウの生態
生息地
熱帯から温帯の海域に広く生息します。
外洋を好み、水深400~1,000mの海でよく見られます。
形態
体長は2.8~4m、体重は300~500㎏でオスもメスも似た見た目をしています。
若齢個体は暗い灰色がかっていますが、年を重ねるとともに明るく、白くなっていきます。
食性
ヤリイカやコウイカ、アメリカオオアカイカなどのイカ類やタコ、アンチョビなどの魚、オキアミ類を食べます。
行動・社会
ハナゴンドウは3~30頭のポッドを作りますが、1,000頭以上の巨大な群れを作ることもあります。
ポッドは性別や年齢によって分かれているようです。
採餌は夜に行います。
朝になると移動や社会行動をし、午後は休息します。
ブリーチングやポーパシング、バウライドなどの水面行動もよく行いますが、警戒心は高く船などにはめったに近づきません。
一方、カマイルカやハンドウイルカなどと一緒に行動することもあります。
繁殖
繁殖には季節性があり北太平洋では夏から秋に、南アフリカでは夏に、カリフォルニア沿岸では秋に出産が見られます。
メスの妊娠期間は13~14ヵ月で、1.1~1.5m、20㎏の赤ちゃんを一頭生みます。
性成熟には8~10歳で達します。
人間とハナゴンドウ
絶滅リスク・保全
ハナゴンドウはどれだけ少なくても35万頭以上はいるとされており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
日本では捕鯨の歴史があり、能登半島にある縄文時代の真脇遺跡からハナゴンドウが出土しています。
戦後、スジイルカなど他の鯨類と比べると捕獲数はごく僅かでしたが、ミンククジラなどのヒゲクジラの鯨肉の供給が低下した1990年ごろから捕獲数が増え、イルカ漁の中心地である和歌山県の太地町では年500頭近くが捕獲されます。
現在、ハナゴンドウの捕獲枠は和歌山県にのみ400頭が割り当てられており、2022年度には149頭が捕獲されています。
動物園
ハナゴンドウは国内ではパンダがいる和歌山県のアドベンチャーワールド、大分県のうみたまごのほか、捕鯨が行われている太地町のくじらの博物館でも飼育されています。