ターキンの基本情報
英名:Takin
学名:Budorcas taxicolor
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ターキン属
生息地:中国、ブータン、インド、ミャンマー
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
六不像
中国に生息し、今となっては野生では絶滅したシカの仲間にシフゾウという種がいます。
この和名は“四不像”という中国語表記に由来しています。
四不像という名前は、シフゾウは角がシカに、頭がウマに、蹄がウシに、そしてしっぽがロバに似ているが、そのどれでもないことを意味します。
確かにシフゾウの見た目はなかなかとらえどころがなく、不思議な雰囲気を醸し出しています。
さて、中国にはこのシフゾウに名前の上で勝る種が存在します。
それがターキンです。
大きな体と角が特徴的なターキンは中国では“六不像”と呼ばれています。
六不像とは、ターキンの背中の盛り上がりがクマに、短い後肢がブチハイエナに、ずんぐりむっくりした脚がウシに、引き締まった顔がヘラジカに、太くて平たいしっぽがヤギに、角がヌーに似ているが、ターキンはそのどれでもないことを意味します。
こうした彼らの他の動物との類似点は、確かにと思うところもあり、実際英語でも“cattle chamois(直訳するとウシシャモア:シャモアはヤギ亜科シャモア属の哺乳類)”や“gnu goat(ヌーヤギ)”と呼ばれる場合もあります。
また、シフゾウが系統的に近しい動物に例えられているのに対し、ターキンの場合クマやブチハイエナなど、遠い肉食動物に例えられているのがとても興味深いです。
体の一部は他の動物に似ているけれど、そのどれでもない。
それでは彼らは一体何なのでしょうか。
上記の6種の動物の中で最も近いのは同じウシ科ヤギ亜科のヤギです。
ターキンは岩場をものともせず移動するため、生態的にもヤギに近しいと言えます。
しかし科や亜科のその下の分類群である属について、ターキンが分類されるターキン属にはターキンしかいません。
つまり彼らはやはり6種のどれでもなく唯一無二の存在なのです。
ちなみにシフゾウもまたシカ科シフゾウゾ属に分類される、いわゆる一属一種です。
偶蹄類において、シカとウシは多くを占めます。
シカ科のシフゾウに対抗し、ターキンもウシ科の“ムフゾウ”という名前でもいいのではないでしょうか。
ターキンの生態
生息地
ターキンは標高1000~4,000mの松林や亜熱帯林、温帯林といった森林地帯や草で覆われた岩場の多い山地に生息します。
形態
体長はオスが2.1~2.2m、メスが1.7m、肩高は1~1.2m、体重は150~400㎏、尾長は約15㎝で、オスの方が大きくなります。
北方に行くにつれ体色は明るくなり、最も北に生息する亜種はゴールデンターキンとして知られています。
角は雌雄ともに存在します。
蹄は大きく岩場での移動を容易にします。
食性
ターキンは葉や草、竹の芽など150種以上の様々な植物を食べます。
後ろ足で立ち上がって採餌をすることもあります。
行動・社会
ターキンは夕暮れや早朝に採餌などの活動をする薄明薄暮性です。
彼らは季節移動をすることで知られており、夏には森林限界付近の高地に登り、冬には低地に降ります。
また、群れの規模もそれに伴い変動し、夏には100頭以上、エサの少ない冬には20頭程度の群れで生活します。
群れにはメスとその子供たちの他、若いオスも含まれますが、成熟したオスは繁殖期を除くと通年単独で生活します。
繁殖
繁殖は夏に行われ、春先に出産が見られます。
メスは200~220日の妊娠期間ののち、5~7㎏の赤ちゃんを1頭産みます。
赤ちゃんは生後数日で母親について歩くようになり、生後1~2ヵ月で固形物を食べ始めます。
性成熟には3.5~5.5年で達し、飼育下での寿命は16~18年です。
人間とターキン
絶滅リスク・保全
ターキンは、森林伐採や道路建設など人間活動による生息地の破壊や、過剰な狩猟、家畜との競合などにより、ここ3世代24年の間に個体数を30%以上減らしたとされており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
また、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅱに記載され、国際取引が管理されています。
中国ではジャイアントパンダやキンシコウ、モウコノウマなどとともに国家一級重点保護野生動物に指定され、法的に保護されています。
動物園
ターキンの4亜種のうちの1亜種、ゴールデンターキンには、東京都の上野動物園、神奈川県のよこはま動物園ズーラシア、和歌山県のアドベンチャーワールドで見ることができます。