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オオカミ

オオカミ
©2016 KayVeePhotos : clipped from the original
目次

オオカミの基本情報

英名:Grey Wolf
学名:Canis lupus
分類:食肉目 イヌ科 イヌ属
生息地:アフガニスタン、アルバニア、アルメニア、オーストリア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ベルギー、ブータン、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、カナダ、中国、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ジョージア、ドイツ、ギリシャ、グリーンランド、ハンガリー、インド、イラン、イラク、イスラエル、イタリア、ヨルダン、カザフスタン、韓国、北朝鮮、キルギスタン、ラトビア、リビア、リトアニア、ルクセンブルク、メキシコ、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、ミャンマー、ネパール、オランダ、北マケドニア、ノルウェー、オマーン、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、サウジアラビア、セルビア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、シリア、タジキスタン、トルクメニスタン、トルコ、ウクライナ、アラブ首長国連邦、アメリカ合衆国、ウズベキスタン、イエメン
保全状況:LC〈経度懸念〉

オオカミ
Photo credit: Yellowstone National Park

参考文献

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最も迫害されてきた哺乳類

凛として美しいオオカミは、かつて崇め奉られる存在でした。

例えばローマを建設したとされる双子の兄弟、ロムルスとレムスはメスのオオカミに育てられたという伝説がありますし、北欧神話に登場するフェンリルという、最高神オーディンをかみ殺す怪物はオオカミの姿をしています。

日本でもエゾオオカミは、アイヌの人々からその狩りの能力を源としてカムイとして崇拝されていましたし、本土のニホンオオカミもシカやイノシシから作物を守るとして神格化され、「大口真神」として古来より奉られてきました。

ロムルスとレムスの像
ロムルスとレムスの像 | Photo credit: Jean-Pol GRANDMONT

しかし、人間のこうしたオオカミ観はここ数百年で劇的に変わることになります。

中世ヨーロッパにおいてオオカミがキリスト教の文脈の中で悪魔の化身とみなされたことで、野蛮、邪悪、非道、狡猾などといったイメージが蔓延し、多くのオオカミが殺されたのです。

オオカミのこうしたイメージは、「赤ずきん」や「三匹の子豚」、「人狼ゲーム」などに見られるように、現代も生き続けています。


また、オオカミが家畜を襲うことや狂犬病などの伝染病もオオカミに対する迫害を加速させ、銃や毒、罠が各地で彼らを絶滅に追いやりました。

その結果、20世紀中頃までに彼らはアイルランドやイギリスを筆頭にヨーロッパの様々な場所から姿を消し、アメリカでもミネソタ州とミシガン州を除く48州で絶滅します。

日本には北海道にエゾオオカミ、本土にニホンオオカミがいましたが、それぞれ1896年、1905年ごろに絶滅したとされています。

ちなみに、日本でオオカミが絶滅した詳しい理由は不明ですが、エサとなる動物の乱獲や家畜を襲う害獣として駆除の対象となったこと、それに関連してそれまでのオオカミの神聖性が近代化にそぐわないとして否定されたことなどが影響したとされています。


ところで、オオカミと言えばイヌ(Canis lupus familiaris)の祖先です

家畜化の歴史は他のどの動物よりも長く、家畜化の始まりは3万年以上前とする説もあります。

1万4千年前の遺跡からは、人間とともに埋葬されたイヌが見つかっており、イヌは古くからホモ・サピエンスの伴侶であったことがうかがえます。

現代社会においても、イヌは我々の物質的、精神的生活に欠かせない存在であり、その祖先であるオオカミが受けてきた冷遇とは対照的です。

オオカミ
Photo credit: Bob Haarmans

生態系の中のオオカミ

中世以降、人間による迫害を受けてきたオオカミですが、1960年ごろから流れが変わります。

1962年、農薬が生態系に及ぼす危害を訴えたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』が出版され、環境問題に世間の目が向き始めます。

1973年には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、通称ワシントン条約が採択。

1978年には世界遺産の登録が始まります。

最初の登録にはダーウィンの進化論に影響を与えたガラパゴス諸島や、世界初の国立公園であるアメリカのイエローストーン国立公園などの自然遺産も4件含まれています。

つまり、それまでの自然に対する向き合い方が変わり、自然保護の機運が高まり始めたのです


その流れの中で、オオカミはどのように扱われたのでしょう。

1973年、生物と生態系の保全を目的とした「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(Endangered Species Act:ESA)」を誕生させ、そのうえでハワイとアラスカを除く本土でオオカミを絶滅危惧種に指定したアメリカ合衆国の例、特にオオカミ再導入の点において最も有名なワイオミング州・イエローストーン国立公園の例を見てみましょう。

1920年代にオオカミが姿を消して以来、イエローストーン国立公園ではアメリカアカシカ(エルク)が生態系のバランスを大いに崩していました。

草木を食べるエルクが増えすぎた結果、ポプラなどの植物の芽までも食い尽くされ、植生に打撃を与えます。

こうした植物はネズミなどの小さな動物の隠れ家でもありましたが、それが無くなったことで彼らを食べるコヨーテが増加し、小動物は激減します。

また、実るはずだったベリー類はクマの冬眠前の重要な餌でもあり、咲くはずだった花はハチやハチドリたちの生命の源でした。

そして、オオカミがいなくなったことでエルクたちはより多くの時間を水辺で過ごしましたが、それが土壌の流出につながり、きれいな水を必要とするビーバーの住処を奪いました。

ビーバーはダムを作りますが、そのダムは多くの魚類や両生類などに多くの住処を提供します。

このようにオオカミがいなくなったイエローストーンでは、数えきれない生物が姿を消し始めました。

つまり、イエローストーンのオオカミは生態系を支えるキーストーン種だったのです

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事態を危惧した生物学者などはオオカミの再導入を提唱し、その努力が実った結果、1995年から1997年の間でカナダとモンタナ州から連れてきた41頭のオオカミがイエローストーン国立公園に放されます

それから20年近くたった現在のイエローストーンの風景はどうでしょうか。

1995年には1万7千頭いたとされるエルクは4千頭にまで減り、アスペンなどの植物は増加。

隠れ家が増えたこととコヨーテがオオカミの捕食などで減少した結果、小動物も戻ってきました。

ベリーが増え、オオカミの食べ残しにあずかるクマも増加、咲き始めた花を求めてハチやハチドリもやってきます。

土壌の浸食も減り、ビーバーは再び姿を現し、彼らが作るダムには多様な生物が帰ってきました。

オオカミはというと、2024年1月現在、最低でも124頭いるとされるまで回復します。

かつての生態系のバランスを取り戻したイエローストーンは10万人以上の観光客をも呼び寄せ、年間3,000万ドルの経済効果を生み出しています。


現在、ワイオミング州含め、米国本土ではオオカミはもはや絶滅危惧種ではないという認識が出てきていますが、一方で彼らの増加は特に家畜業を営む人々にとっては目の敵

オオカミの影響は全体で見れば目をつむれるほどですが、牧場によっては大きな痛手を負うこともあります。

このイエローストーンのオオカミ再導入の例からは、生態系の保全には人間社会とのバランスをとることも重要であることを気づかされます。

オオカミ
Photo credit: Yellowstone National Park
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オオカミの生態

分類

基亜種はヨーロッパオオカミ

亜種は研究者によって10~30ほどあるとされています。

生息地

オオカミは北緯12~75度の標高3,000mまでの温帯林、タイガ、ツンドラ、草原、砂漠など様々な環境に生息します。

基本的に人里から遠く離れた環境で暮らします。

主に内陸性ですが、カナダには沿岸性のものがおり、エサの9割をサケや甲殻類、アザラシなど海の生き物が占めています。

形態

体長は90~160㎝、肩高は60~90㎝、体重は18~80㎏(オスの平均が約55㎏、メスが約45㎏)、尾長は35~52㎝で、イヌ科では最大となります

イヌのように尾が巻いたり耳が垂れたりすることはありません。

尾の上面付け根と肛門に腺があります。

体色は年中真っ白なホッキョクオオカミから真っ黒の個体まで、その生息環境に合わせてバリエーションが豊富です。

年中真っ白な哺乳類はホッキョクグマや一部のホッキョクギツネなど限られた種にしか見られない珍しい特徴です。

オオカミ
ホッキョクオオカミ | Photo credit: V. L.
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食性

主食は大型有蹄類で、ヘラジカトナカイアメリカアカシカジャコウウシなどを群れで協力して狩ります。

このほか、特に放浪中の個体はビーバーなどの齧歯類やホッキョクウサギなどのウサギ類、昆虫、鳥類などの小動物を食べることもあります。

ゴミをあさったり家畜を襲ったりすることもあり、人間と摩擦が生まれる場合もあります。

オオカミは1度の食事で10㎏近く、1日に20㎏近く食べることができ2~3週間食べなくても生きていけます。

捕食者はあまりいませんが、特に子供はコヨーテヒグマアメリカクロクマなどに捕食されることがあります。

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行動

オオカミの行動圏は100~3,000㎢と非常に広く、1日に何十㎞も移動してエサを探します。

彼らは持久力に優れ、高速で数十分走ることができます。

最高時速は55~70㎞です。

狩りの際は、特に弱い個体を選別して襲います。

彼らの遠吠えは、仲間との絆の維持、仲間に自分の位置を知らせる役割の他、他の群れに対するなわばりのアピールの役割もあるとされています。

社会

オオカミはパックと呼ばれる繁殖ペアとその子供たちを基本とする群れを作ります。

パックはふつう5~9頭からなりますが、環境によっては30頭近くになることもあり、血縁関係のない個体が含まれる場合もあります。

繁殖ペアは相手が死ぬまで添い遂げるのが普通です。

子育てにはパック全員で参加し、エサを吐き戻して子供たちに与えるなどします。

子供は1~3歳ごろパックを離れ、繁殖相手が見つかるまで一人で放浪します。

オオカミ
Photo credit: Oregon Department of Fish and Wildlife

繁殖

1~4月の冬が繁殖期です。

メスは約2カ月の妊娠期間ののち、子育て用に作った巣に、平均6~7頭、最大14頭の赤ちゃんを産みます。

赤ちゃんは体重500gで目は閉じて耳は聞こえない未熟な状態で生まれます。

生後10週ごろまでは巣穴で育ち、生後半年で狩りに参加するようになります。

そして1~3歳で独立していきます。

性成熟には2~3年で達します。

寿命は野生では平均5~6年、最長でも13年ほど、飼育下では最長20年近くです。

人間とオオカミ

絶滅リスク・保全

オオカミはかつて最も広範囲に生息する哺乳類でしたが、今ではかつての3分の1の範囲にしか生息していません。

ただ、減少したとはいえその個体数は16~30万頭と推測されており、依然として広い範囲に生息するオオカミは、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。


西欧や北欧には一度オオカミが絶滅した国もありますが、現在は他国からの流入などにより個体数は回復傾向にあります。

一方で、家畜を襲うことで駆除の対象となる場合もあります。


他の国からの自然流入がありえない日本では、オオカミ再導入の声があります。

オオカミがいなくなった日本の森では、増加したニホンシカが植物を食い尽くし、人間社会に大きな被害を生んでいます。

猟師も減り続ける中、今後日本の森にオオカミが帰ってくる可能性もあるかもしれません。

オオカミ
Photo credit: U.S. Fish and Wildlife Service Headquarter
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動物園

オオカミは各地方の動物園で見ることができます。

中でも秋田県の大森山動物園と栃木県の那須どうぶつ王国では、真っ白なホッキョクオオカミを見ることができます。

オオカミとは何者かをぜひその目で確かめてみてください。

秋田市公式サイト
ホッキョクオオカミ 秋田市公式サイト
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