ジャガーの基本情報
英名:Jaguar
学名:Panthera onca
分類:ネコ科 ヒョウ属
生息地:アルゼンチン、ベリーズ、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、フランス領ギニア、グアテマラ、ガイアナ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ベネズエラ
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉
参考文献
南米の覇者
世界で3番目に大きいネコであるジャガーは、南米最大のネコ科動物として、生態系の頂点に君臨しています。
その見た目は覇者の名に劣らず、筋骨隆々。
ヒョウとは見た目がよく似ていますが、一つ、体格が違います。
ヒョウがしなやかな体をしているのに対し、ジャガーは、ずっしりとたくましい体つきをしています。
ちなみに、それ以外には、ロゼット模様と呼ばれる斑点の中に黒い点があるかないかでも、両者を見分けることができます。
そんな筋肉マッチョなジャガーですが、エサとなる草食動物だけでなく、南米で2番目に大きなネコ、ピューマをはじめ、肉食動物をも殺してしまいます。
このうち、食べるのはアライグマ科のハナグマとカニクイアライグマだけですが、同じ肉食動物をも殺してしまうとは、さすがは南米の覇者です。
肉食動物をも捕食するジャガーは、様々な生き物を食べることが知られています。
少なくとも85種類の生き物がジャガーのエサメニューに載ります。
シカやバクをはじめ、カピバラやペッカリー、アルマジロ、アリクイ、ナマケモノ、有袋類、霊長類などの哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、魚類と、実に多様です。
特徴的なのは、他の大型ネコに比べて小さな哺乳類を捕食しているということです。
ジャガーのあの体格ではより大きな獲物を狙えるのに、なぜ彼らはそうせず、小さな獲物を狙うのでしょうか。
最大の理由は、大きな獲物があまりいないからです。
約1万2千年前の更新世末、主に気候変動により、大型の哺乳類を中心とした大量絶滅が起きました。
南米もその影響を受け、大型の哺乳類はほとんど姿を消してしまいます。
それ以来、ジャガーは比較的小さな獲物を捕食せざるを得なくなったのです。
大きな獲物を見つけることができなくなったジャガーは、次第に小型化していきます。
現在でも、ナマケモノなど小型の獲物しかいないような地域に生息するジャガーは、他の地域と比べて小型です。
ところが、約500年前、初期の開拓者が持ち込んだ畜牛により、ジャガーは再び大型化していきます。
それまで、最も大きくてもアメリカヌマジカやバクしかいなかった中で、大量に導入された畜牛は、相手が大きくても殺傷できる力を持つジャガーにとってはもってこいの獲物でした。
その結果、畜牛がいるような地域ではジャガーは大型化していきます。
現在、ジャガーは地域によっては倍も重さが違う場合があります。
ジャガーには今のところ亜種はいませんが、それでも体格にこれほど違いが出るとは興味深いですね。
ところで、ジャガーの噛む力は、ネコの中で最も強いと言われています。
特に狩りでは、その力が存分に発揮されます。
ネコ科特有の喉を噛んで窒息させる以外にも、ジャガーは獲物の頭をかみ砕いて殺すという方法を取ることがあります。
これだけの力を持っていながら、小さな獲物しか捕食できなかったこれまでの時代は、ジャガーにとっては物足りなかったことでしょう。
ジャガーの生態
名前
ジャガー(Jaguar)という名前は、トゥピ語の“yaguara”に由来します。
猛獣、一突きで殺す者というような意味です。
南米の覇者にはぴったりの名前です。
分類
ジャガーに近縁なのはヒョウとライオンです。
彼らとは、その共通祖先から300万~350万年前に分岐したと考えられています。
また、先述のようにジャガーには亜種がいません。
後の時代に登場するヒョウとライオンには亜種が認められていることを考えると、興味深いです。
生息地
ジャガーは、中南米の熱帯低地林や乾燥林、湿潤林、湿地、サバンナ林などに生息します。
標高2,500mまで見られるものの、山地は避けて生息します。
森林に隣接したプランテーションで目撃記録があります。
ジャガーがアメリカ大陸に入ったのは約80万年前。
ベーリング海峡をへて北米に入り、その後28万~51万年前に南に移動したと言われています。
食性
ジャガーは様々な生き物を食べます。
他の大型ネコと比べると、摂取する食物の内、ワニなど爬虫類が占める割合が最も大きいです。
カメの甲羅もワニの頭も強靭な顎でかみ砕くことができます。
その他、畜牛は地域によっては接種生物量の半分以上を占める場合もあるほど重要な食料となっています。
また、死肉を食べることもあります。
人を襲うことは稀です。
形態
体長は150~185㎝、肩高は60~75㎝、体重はオスが36~158㎏、メスが36~100㎏、しっぽは比較的短く45~80㎝です。
ブラジルのパンタナルとベネズエラのリャノの氾濫原に棲むジャガーが最大で、ペルーのジャガーが最小になります。
推定6%の確率でメラニズムが産まれますが、その適応的意義は未だ不明です。
行動
ジャガーは、他の大型ネコと比べるとあまりその生態がよく分かっていません。
狩りは夕方、早朝、夜に行われます。
ジャガーはネコ科でも特に水に適応しており、水中や水源付近でも狩りを行います。
繁殖期以外は単独性で、なわばり性が強いです。
行動圏はオスが20~326㎢、メスが5~133㎢で、乾季に拡大傾向にあります。
生息密度は100㎢に1~10頭で、湿度が高い低地で最大となります。
繁殖
繁殖についてもよく分かっていません。
ジャガーは年中繁殖するようですが、多くの出産は雨季に見られます。
発情期間は6~17日で、91~111日の妊娠期間の後、1~4頭、通常2頭の赤ちゃんが産まれます。
子育ては母親によって行われます。
赤ちゃんは生後2週で目を開き、5カ月までには離乳を完了させます。
離乳と同じころに母親との狩りについて行くようになり、生後15~18カ月には母親の行動圏内で単独で行動、狩りをするようになります。
2歳までには独立を果たし、分散します。
オスの方がより分散するようですが、分散についてはあまりよく分かっていません。
オスは36~48カ月、メスは24~30カ月で性成熟に達します。
寿命は野生で10~12年、飼育下では最長22年の記録があります。
人間とジャガー
絶滅リスク・保全
ジャガーはいくつかの脅威によって個体数を減らし続けており、絶滅が懸念されています。
かつての分布域の約50%から姿を消したと言われており、レッドリストでは準絶滅危惧に指定されています。
最も大きな脅威は森林の減少です。
森林の減少スピードはラテンアメリカで特に高く、しかもその原因の7割を豆やパームオイルなどの農地への転換や畜牛のための牧場への転換が占めています。
これ以外にも、畜牛を捕食するために、牧場主から“家畜の殺し屋”と呼ばれて迫害されたり、足先や犬歯、毛皮目的の狩猟が違法に行われたりすることも、ジャガーの生存に大きく影響しています。
南米の覇者とはいえど、人間の活動には脆弱なのです。
動物園
そんなジャガーですが、日本の動物園でも見ることができます。
静岡県の日本平動物園、大阪府の天王寺動物園、愛媛県のとべ動物園、黒変種は兵庫県の王子動物園で見ることができます。
南米の生態系の頂点に立つジャガーの姿を、これらの動物園で是非見てみてください。