ココノオビアルマジロの基本情報
英名:Nine-banded Armadillo
学名:Dasypus novemcinctus
分類:被甲目 アルマジロ科 ココノオビアルマジロ属
生息地:アルゼンチン、ベリーズ、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、エルサルバドル、フランス領ギアナ、グレナダ、グアテマラ、ガイアナ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、スリナム、トリニダード・トバゴ、アメリカ合衆国、ウルグアイ、ベネズエラ
保全状況: LC〈経度懸念〉
四つ子と繁栄
ココノオビアルマジロは鎧に覆われたその姿もさることながら、一癖も二癖もある哺乳類です。
例えば、彼らはハンセン病の原因菌である”らい菌”の宿主である、今のところヒト以外では唯一の脊椎動物です。
また、彼らはこの2、3世紀程度で分布域を大きく拡大した動物でもあります。
現在、彼らはアメリカ合衆国では唯一見られるアルマジロですが、もともとの生息地は中南米です。
1849年にテキサス州で初めて確認されて以来、その生息範囲は今ではミズーリ州やカンザス州、ノースカロライナ州にまで及んでいます。
彼らは胃や腸に空気を溜め、水中における浮力を調整することができ、また、最長6分間息を止めることができますが、彼らはこの力を使ってミシシッピ川などの障壁を越えてきたのかもしれません。
そんな彼らの特徴の中で際立っているのが、彼らが一卵性の四つ子を産むということです。
彼らの受精卵は最終的に4つの胚に分かれ、それぞれが育つことで遺伝的には同一の四つ子が誕生します。
このように、一つの受精卵が複数に分かれることを、多胚形成と言います。
多胚形成のいいところは少ない投資で複数の子供を産めることです。
こうした能力は哺乳類の中でも極めて稀で、彼らの勢力拡大に大きく貢献していることでしょう。
これに加え、彼らにはイタチやクマの仲間などと同様に着床遅延が見られます。
着床遅延とは文字通り受精卵の着床が遅れることで、ココノオビアルマジロでは最長4ヵ月の間、受精卵が着床せずに子宮内で漂います。
着床遅延のいいところは、子育てにいいタイミングで子供を産めるところ。
多胚形成含め、彼らのこうした繁殖における能力は、彼らの繁栄を間違いなく支えています。
一方で、彼らにも越えられない壁が存在します。
それが乾燥と寒さです。
彼らはエサが少なく、穴を掘って巣穴を作るのに適した土もないような乾燥地帯では暮らせません。
また、小さくて毛という防寒手段を持たず、比較的に低体温な彼らは、寒い日が続く環境で生きのびることができません。
しかし、現在地球温暖化によってこうした彼らに不適な環境はどんどん北上しつつあります。
それに伴い、ココノオビアルマジロが今よりもさらに生息域を拡大させる日もそう遠くないかもしれません。
ちなみに、アメリカの州はそれぞれを代表し象徴する動物を公式に認めていますが、ココノオビアルマジロの適応能力や特性が州の人間のそれと一致していること、州の歴史が始まった1845年ごろに見つかったことなどを理由に、彼らはテキサス州の動物として認定されています。
ココノオビアルマジロの生態
生息地
ココノオビアルマジロは、ナマケモノやアリクイを含む異節上目の中では最大となる生息地を誇ります。
彼らは、熱帯から温帯にかけて標高2,000mまでの森林や草原など、様々な環境に生息します。
ただ、人の手が入っていない一次林で最もよく見られるようです。
形態
体長は36~57㎝、体重は3~7㎏、尾長は26~45㎝でオスの方が若干大きくなります。
耳は体に対して大きく2.5~5.7㎝になります。
前肢に4本、後肢に5本の指があり、真ん中の指の爪が最大となります。
彼らは後肢だけでたつことができます。
歯は小さく釘上で、エナメル質を欠いているため一生伸び続けます。
肛門付近などに臭腺を持っており、特に肛門腺からでる分泌物はマーキング時の他、防衛時にも使用されます。
甲羅の帯は7~11ありますが、9つあるのが最も一般的です。
食性
ココノオビアルマジロはさまざまな昆虫を主食とする昆虫食です。
鋭い嗅覚で地中に潜るエサを見つけます。
甲虫や昆虫の幼虫、アリ、シロアリなどの他、小型哺乳類の子供やミミズ、鳥類やカメの卵なども食べます。
果実や種子などの植物質も食べますが、全体の10%を超えることはありません。
捕食者にはピューマ、アメリカクロクマ、ボブキャット、コヨーテ、ジャガー、タテガミオオカミなどが知られています。
行動・社会
単独性の彼らは、主に夜行性とされていますが寒いと日中活動することもあります。
行動圏は平均6~10haで、その中に5~12個の巣穴を持ちます。
彼らは自ら穴を掘ることができ、巣穴は最大で深さ2m、長さ5mにも及びます。
出口は複数あることが多く、部屋は植物などが敷かれることもあります。
驚くとジャンプする習性があり、一般的なイメージのように丸くなることはありません。
現在の多くの情報はアメリカ合衆国に生息する個体から得られたもので、上記のような生態は南米などでは異なるかもしれません。
繁殖
アメリカ合衆国では、彼らは初夏に交尾をします。
その後、最長4ヵ月の着床遅延と120~130日の妊娠期間ののち、春に四つ子が誕生します。
赤ちゃんは目が開いており、数時間で歩けるようになります。
生後6週ごろまでは巣穴で育ち、2~3ヵ月齢で離乳します。
その後、0.5~1歳で独立していきます。
性成熟には1~2歳で達するようです。
寿命は野生で6~7年、飼育下では20年以上生きた個体もいます。
人間とココノオビアルマジロ
絶滅リスク・保全
ココノオビアルマジロは地域によってはその肉が食べられたり、甲羅など体の一部が工芸品や薬として消費されたりしますが、その生息範囲を鑑みても生存を脅かすほどではありません。
現状大きな脅威はなく、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
動物園
ココノオビアルマジロを日本で見ることはできませんが、ムツオビアルマジロやボールのように完全に丸くなれるマタコミツオビアルマジロには日本の動物園でも見ることができます。