クロアシイタチの基本情報
英名:Black-footed Ferret
学名:Mustela nigripes
分類:イタチ科 イタチ属
生息地:アメリカ合衆国
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
元野生絶滅種
目の周りの黒いマスクが特徴的なクロアシイタチは、そのエサの9割以上をプレーリードッグが占めます。
また、生活場所もタウン(数百頭のプレーリードッグが暮らす)と呼ばれるいくつものトンネルと部屋でできたプレーリードッグの巣穴に頼っており、彼らにとってプレーリードッグはなくてはならない存在となっています。
野生で絶滅したという評価が与えられたことがあります。
その理由は、プレーリードッグにありました。
20世紀、農場や牧場を拡大する上で、穀物に被害を与えるプレーリードッグと、トラクターや馬の移動を阻害するそのタウンは邪魔な存在でした。
そこで、牧場主たちは毒や罠を用い、多くの地域でプレーリードッグを撲滅しました。
その結果、プレーリードッグに生活を頼るクロアシイタチも激減してしまい、1970年代には絶滅したと考えられるまでになりました。
しかし、1981年、ワイオミング州で奇跡的に野生個体群が発見されます。
しかし彼らもプレーリードッグの減少やイヌジステンパーという病気の影響を受け、壊滅してしまいます。
その結果、1987年までには野生個体はとうとういなくなったと考えられるまでになり、1996年、IUCNにより野生絶滅(EW:Extinct in the Wild)の評価を与えられてしまいました。
ただ現在、IUCNのレッドリストにおいて、クロアシイタチは絶滅危惧ⅠB類の種として記載されています。
つまり、野生絶滅という評価から格下げされているのです。
その理由は、野生に飼育個体が再導入されたことにあります。
実は、クロアシイタチの最後の野生個体群の18頭は、捕獲され、その内7頭のメスが出産していました。
その後も飼育下での繁殖は進み、1987年以来、8,000頭以上の赤ちゃんが産まれています。
再導入は1991年から始まり、2009年までに3,900頭以上が、カナダ、合衆国、メキシコの24カ所に再導入されました。
しかし、再導入された個体群は中々定着していません。
飼育下で野生での生活を身につけるのは困難ですし、クロアシイタチの場合、遺伝的多様性が非常に低いため、病気が流行れば一気に消滅する可能性があります。
数千頭が再導入されたにもかかわらず、生き延びた成熟個体は2009年で448頭、2015年には295頭にまで減少します。
2015年現在、持続可能な個体群は合衆国の4カ所に限られ、成熟個体206頭が持続可能な個体群で生活しています。
かつてカナダ南部からメキシコ北部にかけて広く見られたクロアシイタチは、かつての数%の生息地でひっそりと暮らしています。
クロアシイタチの生態
生息地
クロアシイタチは、アメリカ合衆国の標高500~3,100mのプレーリーやステップに生息します。
このうち、持続可能な個体群はサウスダコタ州、ワイオミング州、アリゾナ州に存在します。
食性
主食はプレーリードッグですが、その他にもジリスやネズミを食べることがあります。
エサの一日の平均摂取量は50~70gで、彼らはイイズナなどのように食べきれる以上のエサを狩ることはありません。
下の動画では、面白いことにエサであるはずのプレーリードッグがクロアシイタチを追い払っています。
これは非常に珍しいことのようで、動画に登場する専門家もガゼルがチーターを追いかけるようなものだと驚いています。
クロアシイタチを食べる捕食者には、猛禽類やコヨーテ、アメリカアナグマ、ボブキャットがいます。
形態
体長は36~45㎝、体重はオスが0.9~1.1㎏、メスが0.6~0.85㎏、尾長は12~15㎝で、性的二型が見られます。
行動
クロアシイタチは主に夜行性で、夕暮れに活発に活動します。
単独性の彼らは、プレーリードッグのタウンの中で生活します。
なわばり性があり、同性個体からなわばりを防衛します。
オスの行動圏は複数のメスのそれと重複していることがあります。
彼らは鋭い嗅覚、視覚、聴覚を備えており、コミュニケーションには尿や糞のにおいや音声が用いられます。
繁殖
繁殖には季節性が見られ、3月から4月にかけて交尾が行われます。
妊娠期間は35~45日で、1~6頭の赤ちゃんが産まれます。
育児はもっぱら母親の役割です。
赤ちゃんは生後6週で巣を出るようになり、7月~8月までは親元で過ごします。
9月~11月にかけて親元を離れ、新たなプレーリードッグのコロニーを探して移動します。
性成熟には1歳で達し、寿命は飼育下で約12年です。
人間とクロアシイタチ
絶滅リスク・保全
クロアシイタチは、現在もいくつかの脅威に直面しています。
生息地の減少や、分断、エサであるプレーリードッグの減少は今でも脅威となっています。
また、シマスカンクやアライグマ、アカギツネなどから感染するイヌジステンパーや狂犬病、ペスト、インフルエンザと言った病気も大きな脅威です。
動物園
そんなクロアシイタチですが、残念ながら日本では会ことができません。
いつの日か野生でも日本の動物園でも一般的に見られる日が来るといいですね。